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はじめに
従業員のモチベーションを高め、組織全体のパフォーマンスを向上させるために重要な概念の一つが「ワーク・エンゲイジメント」です。ワーク・エンゲイジメントは、仕事に対するポジティブな姿勢を示す指標であり、メンタルヘルスとの密接な関係があります。本記事では、ワーク・エンゲイジメントの定義とそのメンタルヘルスへの影響について解説します。※この記事は、大塚泰正先生の論文「働く人にとってのモチベーションの意義」[2017]を参考にしています。
ワーク・エンゲイジメントとは?
ワーク・エンゲイジメントは、Schaufeli and Bakker(2004)によって「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」と定義されています。この状態は以下の3つの要素によって特徴づけられます。
- 活力: 身体的にも精神的にもエネルギッシュで、ストレスに対して粘り強く、回復力がある状態。
- 熱意: 仕事に対して高いコミットメントを感じ、誇りを持ち、仕事に意味を見出している状態。
- 没頭: 仕事に完全に集中し、他のことが気にならなくなるほど仕事に没頭している状態。
これらの要素は、従業員が仕事において高いパフォーマンスを発揮するための基盤であり、仕事に対するポジティブな感情と認知を促進します。
ワーク・エンゲイジメントとメンタルヘルスの関係
ワーク・エンゲイジメントは、従業員のメンタルヘルスに対して非常に良い影響を与えることが研究で示されています。エンゲイジメントが高い従業員は、ストレスに強く、仕事からの回復も早いとされています。また、エンゲイジメントが高い状態では、うつや疲労などのネガティブな心理的反応が減少し、ポジティブな感情が増える傾向があります。
一方で、従来の職業性ストレス研究では、仕事の要求度が高い環境では従業員がうつ状態や怒りなどの心理的ストレス反応を示すことが指摘されてきました。しかし、ワーク・エンゲイジメントが高い従業員は、このようなストレスに対しても強い耐性を持ち、仕事の要求に対処できる力を持っています。
JD-Rモデルの紹介
ワーク・エンゲイジメントの理解を深めるために、SchaufeliとBakker(2004)によって提唱された「仕事の要求度─資源モデル(JD-Rモデル)」が重要です。
JD-Rモデルの基本
JD-Rモデルでは、仕事における「要求度」と「資源」のバランスが、従業員のストレス反応やエンゲイジメントにどのように影響を与えるかが示されています。
- 仕事の要求度: これは従業員に負荷をかける仕事の要求の大きさを指します。要求度が高いとストレスが増え、心理的な負担が大きくなる傾向があります。
- 仕事の資源: 仕事の資源は従業員が仕事を行う上で必要とする支援や裁量のことです。上司や同僚からのサポート、役割の明確さ、仕事に対する裁量権などが含まれます。資源が豊富にあると、従業員はストレスに対処しやすくなり、エンゲイジメントが高まります。
JD-Rモデルは、仕事の資源が従業員のエンゲイジメントを高め、心理的ストレスを軽減する役割を果たすことを示しています。逆に、仕事の要求度が高すぎて資源が不足していると、従業員は燃え尽き症候群やメンタルヘルスの悪化に直面するリスクが高まります。
ワーク・エンゲイジメントを高める要因
ワーク・エンゲイジメントを高めるために、以下の要因があります。
- 仕事の資源を増やす: 上司や同僚からのサポートを増やし、従業員に仕事の裁量権を与えることで、仕事に対する意欲や集中力が向上します。
- 個人の資源を活用する: 自己効力感や自尊感情を高めることで、仕事に対して積極的に取り組む姿勢を促進できます。これにより、従業員はより強いエンゲイジメントを持って仕事に向き合うことができます。
まとめ
ワーク・エンゲイジメントは、従業員が仕事においてポジティブな心理状態を保つために不可欠な要素です。メンタルヘルスに対しても大きな影響を与え、従業員がストレスを感じにくく、仕事に積極的に取り組むことを可能にします。特に、仕事の資源を増やし、従業員一人ひとりが自分の強みを発揮できる環境を整えることが重要です。