ビジネスゲームを効果的な研修ツールとして活用するためには、ただ単に「楽しい」だけでは不十分です。ゲームの中でどれだけの学習効果が得られるかは、ゲームの設計に使われるロジック、つまり教育理論やインストラクショナルデザインの品質に大きく依存します。当社が採用している「RETAINモデル」は、教育ゲームとして学習に適しているかゲームを評価するモデルです。以下では、RETAINモデルの各要素を詳しく説明し、ロジックに基づくゲーム設計の重要性を掘り下げます。

RETAINモデルとは

RETAINモデルとは、Gunterらが発表した教育ゲームを評価するモデルです。こちらの評価指標が発表された背景には、ゲームを教育コンテンツとして盛り込みさえすれば、学習者のモチベーションが上がるだろうと考えられることが多く、それによりその場しのぎの教育コンテンツが乱発されている現状があります。例えば、学習させたい知識をふんだんに盛り込んだゲームなどは、いろいろ学習することができて、非常に有効そうに見えます。しかし、それでは学習させたい内容がぶれてしまい、かつ学習者もしっかりと理解してくれない可能性があります。

RETAINモデルは、『学習内容がゲームのファンタジーやストーリーの中に内発的に埋め込まれ、知識の伝達を促進し、繰り返し使用することで学習内容が自動的に使用できるようになることを評価するため』に開発されたものです。これらの指標を有効活用することで、理論に基づいた教育ゲーム設計を行うことが可能となります。

(論文名)
『Taking educational games seriously: using the RETAIN model to design endogenous fantasy into standalone educational games』Glenda A. Gunter Æ Robert F. Kenny Æ Erik H. Vick[2007]

『RETAIN』とは

RETAINモデルの『RETAIN』とは、以下の頭文字をつなげた造語です。

上記の6項目について点数をつけ、それぞれの係数に重みをつけた計算を行い、教育ゲームとして評価を図るものです。以下、それぞれの項目について簡単に解説していきます。

1. Relevance(関連性) – 学習内容が実務に直結する

これは、学習内容が受講者にとってどれだけ「関連性」があるかの評価です。ビジネスゲームの中で学んだ内容が、現実の業務に直結していなければ、研修の効果は限られてしまいます。つまりゲーム内のシナリオや課題が、受講者の業務や職務に関連し、実際の仕事に活用できるか評価するものです。

例えば、マーケティング部門向けのゲームでは、実際の市場動向や顧客分析を反映したシミュレーションを提供し、受講者はリアルな業務の状況に即した意思決定を学びます。こうしたリアルな体験に基づいた学びは、研修終了後もすぐに業務に活用でき、現実のパフォーマンス向上に貢献します。

2. Embedding(埋め込み) – 学習内容が自然にゲームに統合される

こちらは学習内容がゲームの流れと分離していないか評価する指標です。学習内容がゲーム内のストーリーや進行に自然に「埋め込まれている」ことが重視されています。つまり、学習内容がゲームプレイの中核に組み込まれ、プレイヤーが意識しなくても学べるように設計されているかどうか図るものになっているか判断していきます。

例えば、財務管理を学ぶゲームでは、プレイヤーが資金運用や予算管理をリアルタイムで行う中で、財務の基本的な概念やスキルを習得できます。ゲームが進むにつれて複雑な財務戦略が必要となるため、自然と高度なスキルを学べる仕組みになっています。

3. Transfer(転移) – 学んだスキルを現実の場面に応用できる

ゲーム内で学んだ知識やスキルが、現実のビジネスシーンで「転移」され、応用できることかどうかの評価指標です。つまり研修で習得したスキルが現実の業務に直結するように設計されているかが重要です。たとえば、リーダーシップ研修のゲームでは、シミュレーションでの意思決定プロセスを通じて、現実のプロジェクトでリーダーとしての判断力を強化できます。

このように、ゲーム内での体験を現実の場面に即座に活かすことができるため、研修の効果がその後の業務に大きく貢献します。

4. Adaptation(適応) – 変化に対応する力を育てる

ビジネス環境は常に変化しており、その変化に対応するための「適応力」を養うことが求められます。この指標は、受講者がゲーム内で様々な状況に直面し、それに対応する力を養うことが設計されているか判断するための指標となります。

例えば、経営戦略ゲームでは、市場環境や競合状況が刻々と変化する中で、プレイヤーが柔軟に戦略を変更する必要があります。このようなゲームデザインによって、受講者は変化に強いビジネスリーダーとしての能力を鍛えることができます。

5. Immersion(没入) – 学習に没頭し、効果を最大化する

ゲームを使った学習で特に効果を高める要素が「没入感」です。受講者がゲームに没頭することで、集中力が高まり、学びが深まります。ここでは受講者が感情的・知的にゲームに完全に没入できるよう、ストーリー性やインタラクティブな要素が設計されているか評価します。

例えば、ゲーム内で架空のビジネスを経営するシナリオでは、受講者が会社の成長や意思決定に深く関わることで、強い没入感が生まれます。この没入感があることで、研修中に習得したスキルや知識がより深く定着し、ゲームの外でも活用できるようになります。

もちろんUIデザインもこちらに大きく影響します。無機質なデザインではなく、実際のビジネスに即した見た目も非常に重要であると当社では考えています。

6. Naturalization(自動化) – 繰り返し学習でスキルを習得する

学んだ知識やスキルを確実に習得し、無意識のうちに実践できるレベルにまで高めることが重要です。ここでは受講者が繰り返し練習を重ね、学んだことが自然に実践できるような設計となっているか評価します。

たとえば、問題解決型のビジネスゲームでは、プレイヤーが同様の問題に何度も取り組むことで、自然と問題解決のプロセスが体に染み付きます。これにより、研修後もそのスキルを無意識のうちに活用できるようになります。


まとめ

当社が採用するRETAINモデルは、単なるゲームの楽しさにとどまらず、学習理論に基づいたロジックを駆使して効果的な研修を提供するための評価指標となっています。このモデルにより、ゲーム内での学びが実務に活かされ、受講者は変化に対応できる柔軟な人材へと成長します。特に、没入感を通じた集中力の向上や繰り返し学習によるスキルの自動化は、現実の業務改善に大きく寄与します。ロジックに基づいたゲーム設計が、より効果的な人材育成を実現するための鍵となるのです。

当社では、オリジナルのビジネスゲームを制作しています。少しでもご興味ある方は、お気軽にお問い合わせください。