「スラムダンク」(出典:SLAM DUNK 井上雄彦/集英社)は世界中で愛されているスポーツ漫画の一つです。今回は、この物語に登場する指導者たちをプロジェクトマネジメントの視点で解説します。彼らがどのようなリーダーシップを持ち、それぞれの理論にどのように当てはまるかを探ります。今回は第一弾として湘北高校 安西監督です。

湘北高校 安西監督

作中のリーダーシップ 

 安西監督は基本的にはチームの方針に口を出しません。(途上にある桜木や悩める流川には直接指導やアドバイスを送っていますがそちらはコーチングの話として、今回はチームマネジメントに焦点をあてます。)
マネージャーの彩子から指導を要求された時にも「赤木キャプテンに任せてありますから大丈夫ですよ」(2巻より)とチームに責任と権限を委譲し、自分からは意識的に口を出さないようにしています。
 ですがチームが本当に窮地に陥った時には方針を示唆し、チームの精神的な後ろ盾となっています。

SL理論 委任型リーダーシップ

 SL理論とは1969年にPaul Hersey と Ken Blanchardによって発表された、Situational Leadershipの略で状況によってリーダーシップのスタイルを変えるべきとされる理論です。SL理論ではチームのスキル成熟度とチーム意欲にあわせ「指示型」「コーチ型」「支援型」「委任型」の4類型をとります。ここで委任型はチームのスキル成熟度が高くかつ意欲も高い時に適用するとされるリーダーシップタイプで、基本的にはチームに責任と権限を委任し、リーダーは最小限のリーダーシップを行使するといったタイプとなります。
 湘北は既にスター選手が集まっており高いスキル成熟度と赤木キャプテンが掲げる「全国制覇」に向け、チーム全体で高い意欲が形成された状態ですので「委任型」が適したリーダーシップとなります。逆に言うと赤木キャプテンがいなければクセのあるメンバ同士でチームのビジョンが確立されておらず、安西先生も「支援型」に変えていたかもしれませんね。
 ただ「委任型」はこれだけ見ると「放置するリーダーシップなのか」と見えてしまいます。しかし実際は放置とはかけ離れたものであり細かな配慮が必要です。似たようなリーダーシップであるサーバントリーダーシップ理論を見ることで少し深堀して見ましょう。

サーバントリーダーシップ

 サーバントリーダーシップという言葉自体はRobert K. Greenleafが1970年に記載された言葉ですが、リーダーシップの概念としては現在にわたって研究されている概念となります。サーバントリーダーシップの属性として以下の10項目が挙げられています。(日本サーバントリーダーシップ協会から引用)

  • 傾聴
  • 共感
  • 癒やし
  • 気づき
  • 説得
  • 概念化
  • 先見力
  • 執事役
  • 人々の成長に関わる
  • コミュニティづくり

 この中で「傾聴」や「癒し」、「人々の成長に関わる」等については語らずとも漫画を読んでいた人ならば言わずもがなかと思います。山王戦で「私だけかね…?まだ勝てると思ってるのは…」(SLAM DUNK 新装再編版 17巻)と言ったセリフは相手の状況を「傾聴」「共感」した上で、「説得」するような行動ととれます。
 「執事役」に関しても、ポテンシャルのあるメンバがそろったもののチームとしては経験不足である湘北の為に強豪である陵南との練習試合を組んだり、裏方として徹しています。
 また、豊玉戦(SLAM DUNK 新装再編版 15巻)でラフプレイや挑発を受け、相手のペースに翻弄され湘北メンバが自分たちのペースを見失ってしまった際には、「相手の安い挑発にのって一人相撲のPG」「予想された徹底マークに意地になって無謀な攻めを繰り返す主将」と痛いところをついたあと「全国制覇とは口だけの目標かね」と本来のビジョンを取り戻させる一言でメンバを自分たちのプレイが出来るように立ち戻しています。これも「気づき」「説得」「癒し」等の例と言えるでしょう。

 サーバントリーダーシップは基本的にはチーム内の決定権や方針ほとんどをメンバ達自身に任せ、リーダーはサーバント(召使)のように裏方にまわります。リーダーはチームメンバに対して自己実現が達成できるような手助けをし、主体的な指導は行いません。またチームが本来のビジョンを見失った時やトラブル発生時には、解決の手助けをします。

他にも安西先生のサーバントリーダーシップを体現したようなエピソードや、安西先生も人ですので不完全な点や過去の失敗など語りたいことはありますが、今回はこの辺とさせていただきます。

株式会社サーカスではリーダーやマネジャー育成のための研修を用意しており、ボードゲームを活用した研修を始めとし、効果的な研修の開発を行っております。研修の成果が行動変容につながるような、教科書通りの知識だけではない生きた知識となるような研修設計に努めております。研修についてご興味があればフォームよりお問い合わせをお願いいたします。